1 -1. カウコンフォート 【宮崎県都城市大動物開業医 山本浩通】
<牛舎の改善>
@ マットについて
ゴムチップで作られた、個別のパスチャーマットより、トップカバーのつながった一連式のマットの方が、段差が無く、搾乳の効率も上がるため、搾乳量が増加する。
A 水槽について
旧ウォーターカップでは、パイプ部分に餌などがつまることで、水の状態が悪くなったり、パイプの下流では水の出方が少なかったりすることから、乳量の低下を招いてしまう。また、搾乳後、牛の飲水量が増加したとき、旧ウォーターカップでは、水の供給速度が遅すぎる。アメリカでは20秒あたりの流水量は7リットル程度が推奨されているが、都城の農家では、これが3リットル以下というのが現状。これらの問題は、連続水槽を取り付けることにより改善される。ここでの注意点は、連続水槽の水は、餌などにより汚れやすいため、毎日掃除をする必要があるということである。
B 飼槽について
古い飼槽を改良してFRP飼槽にし、飼槽表面の凸凹をなくすことで、掃除がスムーズにでき、食べ残しなどが残りにくいため、乾物摂取量が増加したようだった。FRP飼槽の注意点としては、飼槽を作るときに、3〜4日かけて、下地作りをしっかりし、乾燥させておかないと、すぐに割れてしまうということである。
◎乳牛を40頭規模の農家でこの@〜Bの改良を行った結果、乳量が月あたり1万キロ増えた。これは年間にして、500〜600万円の収益の差になる。
1 -2. 保育農家における子牛の育成
【宮崎県都城市大動物開業医 山本浩通】
ある保育農家では、生後1週間〜1ヶ月の子牛を、乾草を食べさせないようにスノコの上で飼育する。生後3ヶ月までは、ミルク、水、スターターのみで育てると、生後8週で、通常の飼育をした牛よりも、胃壁が明らかに厚くなる。その後の体重、体高もかなり良好な伸びを見せ、体高についていえば、ふつうなら15〜16ヶ月かかるのに、12ヶ月で130cmに到達する。これにより、生後12ヶ月で、種付けができ、初産までの期間も短くなる。
<質疑応答>
Q:FRPは2層がよいのか?3層がよいのか?
A:2層で十分。それよりも施行の過程が重要。
Q:連続水槽について、水のみ場の下に餌場があったら餌が食べにくくないか?
A:水面までは90センチあり、首を出し入れするのに支障ない。
Q:飼槽、水槽の改良の結果は、肥育牛においても当てはまるか?
A:乳牛の餌は水分が多く、酪農家自体が古い飼槽のところが多いので、そういった問題の少ない肥育牛では、乳牛ほどの結果は望めないと思う。
Q:子牛の胃粘膜が厚くなるのはホルスタインのみか?肉牛でも当てはまるか?
A:原理は一緒なので当てはまると思う。
Q:保育農家のスターターは何を使用しているのか?
A:この農家はペレットのみ。繊維はペレットに入っている麦皮だけでした。本当はもっと多い方が良いと思う。
Q:スノコは冬寒くないのか?
A:スノコは寒くなるので、寒くない時期だけ使用する。
Q:スノコを使用したとき、下痢はしないか?
A:下痢をすることはありますが、発育が良いので問題ないと思う。
80頭規模の酪農家で、1ヶ月のうちに7頭が起立不能になり、死亡したが、原因は不明。起立不能になった牛では以下のような症状がみられた。
症例@:外観は異常なし。脾臓に膿瘍形成。大動脈が破裂し、出血していた(おそらく直接の死因)。心外膜炎が見られた。Actinomyces pyogenesが分離された。疣状皮膚炎の菌も、スピロヘータも調べたが、見つけることは出来なかった。
症例A:畜主から、死産した親牛が起立不能との連絡があり、往診したところ、体温は39度で外観は異常なかった。治療として、等張3リットル、ニューグロン500ミリリットル、チオラ50ミリリットルを投与した。翌日、起立しようとするが後肢がたたず、治療として、等張3リットル、ニューグロン500ミリリットル、マグゾール100ミリリットル、パンカル30ミリリットルを投与。剖検の結果:後肢の大腿部の炎症が顕著に見られた。汚淡黄色豆腐粘状に筋に線維が見られた。左寛骨は漿液が貯留していた。
症例B:後肢基節部が弯曲していた。脇下リンパ節が腫大していた。左後肢、脇下の神経が膠様浸潤していた。大腿全体に炎症が見られた。筋肉がスポンジ様になっていた。大腿は膠様浸潤・血餅が見られた。左肺胸膜炎が見られた。双頭胎児を出産した。
症例C:難産介助前より起立不能であった。外見は蹄も含めて異常は無かった。右前肢体筋肉が黄淡化していた。右前肢基節部から骨が見えていた。子牛は奇形で後ろ足が麻痺していたが、前肢はよく動いた。
◎これらの症例は、ビタミンA,Eの値が20単位以下(正常は約5万単位)と低く、疣は確認できなかった。
◎この農家では、この起立不能の原因は同じ原因なのではないかと考え、疣状皮膚炎の予防をした(抗生物質として、非搾乳牛にはマイシリンを20ミリリットルずつ筋注し、乳牛全頭にキモトリプシン1万単位を筋注)。ここで、「薬物を投与することで疣はなくなったが、大腿や脇下に病原体が入り、巣食ってしまうのではないか」と考えた。その後、硫酸銅の脚浴を行っているが、起立不能の牛はいなくなった。
◎この農家では、乳房炎が多く、抗生物質は薬剤感受性試験では効果があるようだが、現実にはなかなか効果があがらなかった。
◎また別の農家で、肢に異常が見られる牛に蹄病軟膏をつけ、なかなか治らないので蹄の裏側を見たら、疣が確認された。そこで、オキシテトラサイクリンを塗布、または注射により投与すると、疣はなくなった。
<質疑応答>
Q:どの抗生物質も効果が上がらなかったのか?
A:抗生物質はすべて効くはずなのに、投与しても現実には藻がでてくる。薬剤感受性試験ではほとんど全部効果があった。
Q:抗生物質をいろいろ変えても効果は無いのか?
A:ある程度は効果があるが、投与を止めると再発する。
Q:BM菌やEM菌は使っていないのか?
A:この農家では肝炎が発生した時、バイオクリーナーを使って、肝炎は減ったのだが、乳房炎は減らなかった。BM菌やEM菌ははっきりした効果が出ていないため、使用を中止した。
3. モバイル超音波診断装置[トリンガ-v ダウンファイア]
【すみれ医療】
画像表示 |
5インチ TFT液晶ディスプレイ |
|
256階調グレイスケール |
重量 |
800g(バッテリーは除く) |
トランスデューサ |
3.5/5.0もしくは5.0/7.5MHzのメカニカルセクタ |
イメージモード |
Bモード、B/Bモード、Mモード、B/Mモード |
画像角度 |
30°60°90°より選択 |
バッテリー性能 |
12VDC(100V交流電源による充電式) |
測定・演算モード |
距離、面積(円、楕円)、角度、時間、速度、心拍数 |
接続端子 |
双方向赤外線ポート |
|
NTSCビデオポート |
標準品目 |
Tringa本体及び専用トランスデューサ1本 |
|
保管ケース |
|
標準バッテリー及び充電器 |
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専用グローブ |
|
ソノゲル |
オプション |
キャリングケース |
|
追加バッテリー |
|
テーブルスタンド |
製造元: オランダ パイメディカル社
薬事承認番号: 農林水産省司令14生畜第67号
◎バッテリーは8時間充電の4時間使用
◎本体はわずか800gと軽量であるため、専用のグローブに取り付けて片手の手首に装着し、もう片方の手でプローブを操作することができる
◎従来のリニア型超音波診断装置では、畜舎の粉塵が本体後部から入って故障することがあったが、Tringaの本体後部にはフィルター(3ヶ月で交換)がついているのでそういった故障を防げる。また、プローブと本体いずれも防水加工を施してあり、水洗いが可能である。
◎フリーズ機能があり、また、160枚の画像が記憶できるので、パソコンに取り込んでプリントアウトすると、画像保管も可能。
◎軽量化とコストパフォーマンスのため画質がやや物足りないが、販売して2ヶ月たった現在、とくにクレームやトラブルはない。1万円クラスのテレビやビデオプリンタに接続するとよりきれいな画像が得られる。
◎プローブに対して約12°の角度で超音波が出るので、プローブを垂直に当てる必要がない。このため、従来のセクタ型より牛の直腸内での操作性が良い。
◎深さとしては20cmまで可能だが、より良い画像を得るには14cmまで。
◎従来使われていたリニア型は真下に超音波を発するが、このセクタ型は扇型に発するため、その位置関係の違いに慣れるのに多少時間がかかるが、牛を5頭診ればたいていの人が慣れるようだ。
◎牛や競走馬では、腱や骨折の状態を診るのにも使われている。
◎妊娠鑑定はホルスタイン牛が23日、黒毛和種牛が34日程度で可能
<質疑応答>
Q. 値段は?
A. 定価で140万。パソコンにつなぐ場合は赤外線ポート(電器店でも取り扱
っている)を使うのでそれが1万5千円くらい。共済などにあるビデオプ
リンタを使えば安くすむのでは?
4. 発情発見装置
【コムテック代表取締役 笹栗紘二】
商品名 「発情ピタリ」・・・牛(搾乳牛、和牛、放牧牛、育成牛、繋ぎ飼育牛)のスタンディング回数、もしくは歩数をカウントし、一時間ごとのデータを送信するシステム。受信器(A4サイズ。厚さ42mm)で受け取ったデータは、リアルタイムで電話回線によりパソコンにグラフ表示され、そのピークから授精適期を知ることができる。
従来のシステムはアナログで、データの送信が短距離間に限られていたため、牛が搾乳パーラーに入ってくるときにデータを受信していた(搾乳と搾乳の間のデータがまとめて出てきていたためリアルタイムの情報が得られなかった)。
牛に取り付けた装置から受信器がデータを受け取ることのできる距離は150〜200m以内。装置は48時間分のデータを記憶できるため、放牧牛が受信可能範囲を離れても、再び受信圏内に近づけばその間のデータを受信できる。受信器からパソコンまでは電話回線なのでどんなに離れていても可能(県外でも)。一つの受診器で999頭まで管理できる。
発情発見率は、育成乳牛と和牛では97〜100%、搾乳牛では70〜90%。初回受胎率は83〜91%。
◎スタンディングカウントによるシステム
一回のスタンディングは平均3秒、持続時間は平均13時間であり、また、約7割以上の牛が夕方5時から朝8時にかけてスタンディングを示すので、勤務時間内に目視で見つけるのは困難である。特に和牛の経産牛ではスタンディングが5回くらいしかなく、持続時間も約3時間と非常に短い。
このシステムではスタンディングヒートで他牛に乗駕されると、十字部に貼り付けたスイッチが押され、そのカウント数が受信器に発信される。スタンディングのピークから約15時間でAIすると最も高い受胎率が得られる。
◎万歩計
発情期の歩数は非発情期の歩数の2.5〜4.5倍あるため、これを足首または
首につけた万歩計でカウントすることで発情を発見するシステム。現在酪農
学園大にて試験中で、12月中頃から量産して納品しながらデータをとってい
く予定。
<質疑応答>
Q.経費は?
A.100頭群で20個の万歩計を使用した場合、パソコン(ソフト)も合わせて300万円が定価。ただし和牛でH13〜H17年度分については農水省の半額補助がおりる(乳牛についても口頭で補助が決まっていたが、BSEの発生で取り消しに)。パソコンにトラブルが生じたら電話回線でデータをコムテック送っもらい、修理してデータを戻して再起動する、というのも検討中。
Q.往診に活用するとすれば受胎の悪い牛にだけ装置を取り付けて、そこがうまくいったら次の農家で使用する、というのは可能か?
A.高額なのは受信器なので、各農家の問題牛に装置だけつけて、診療車に受器を1台のせる。牛舎の200m圏内に診療車が近づいたところで受信器の電源を入れると、データを受信できる。
Q.スタンディングカウントと万歩計と、どちらがおすすめか?
A.試験的に両方つけたところ、いずれのピークも一致した。搾乳牛は約半数の個体がスタンディングヒートを示さないので乳牛であれば万歩計をおすすめしたい。和牛ならスタンディングで。電池は5〜7年はもつので、導入から廃用までのあいだは大丈夫だろう。北海道で太陽電池を使ってやっているところも。
Q.AI後、次回発情期にほぼ100%の確率でパソコン上で妊娠鑑定できるとあるが、AIして3週間くらいしたときに万歩計のデータから発情がきていなければ受胎しているとするのか?
A.そうです。AIして3週間で、1回目の発情と同じデータが出ると100%不受胎なので、そこで再AIすれば空胎期間を短縮できる。ただし、受胎しているのに微弱な発情徴候を示す個体が14%ほどいる。
Q.100頭以下の農家には適さないか?
A.頭数は問わないが、受信器だけで100万円するので、それで採算がとれるかという問題がある。授精師の車に受信器を取り付ければ複数の農家をそれで管理できるので農家は受信器を買わないですむし、授精適期にだけ農家に出向くので授精師の無駄な行き来をなくすことにもなる。
Q.車に受信器を取り付ければ直接パソコンにとり込めるのか?
A.受信器と一緒にノートパソコンをつんでおけば可能。
Q.(牛につける)発信器は牛舎のインバータ扇風機の影響は受けないか?
A.デジタルなのでインバータでノイズが出ることは全くない。また、コンクリートの厚い壁があっても、デジタルだと、電波が窓から出て牛舎周辺の物にはねかえって目的の受信器まで発信できる(東京都庁で実験したところ7階から47階まで発信できた)。また、出力はわずか1mW(携帯電話が800mW、PHSが80mW)なので医療機器への誤作動といった影響もない
5. 硝酸体窒素除去装置
【ウィング宮崎代表 甲斐豊繁】
全国的に問題となっている硝酸体窒素による地下水汚染は、南九州で特に深刻である。宮崎では川南、都城盆地、鹿児島ではほぼ全域において水道基準値の10ppmをはるかに越える硝酸体窒素が地下水から検出されている。聞くところによると川南や知覧、枕崎、鹿屋では20〜40ppmの地域もあるようだ。
畜舎が人里離れたところにあるため水道がきていない、もしくは高地にある
ため、水圧の問題で水道をひくことができない、などの理由で地下水を使用している農家が多くある。こうした地域での硝酸体窒素汚染は、人や家畜へ深刻な被害を及ぼす可能性が高い。
◎硝酸除去器は毎日自動で夜中に洗浄(1〜2時間)。洗浄剤は食品の一種で、本装置のランニングコストはこの洗浄剤の代金のみである。(容量が360l/hの除去装置で年間の洗浄剤代は約3万円。)
◎硝酸体窒素除去装置設置効果に関する水質試験
検査項目 |
原水(処理前) |
浄水(処理後) |
水質基準 |
一般細菌(個/ml) |
300以上 |
0 |
100以下 |
大腸菌群(個/ml) |
300以上 |
不検出 |
検出されないこと |
硝酸体窒素および 亜硝酸体窒素(mg/l) |
12 |
1.7 |
10以下 |
塩素イオン(mg/l) |
9.4 |
57 |
200以下 |
有機物等(mg/l) |
1.4 |
1.3 |
10以下 |
pH値 |
6.5 |
6.8 |
5.8以上8.6以下 |
味 |
異常なし |
異常なし |
異常でないこと |
臭気 |
異常なし |
異常なし |
異常でないこと |
色度(度) |
1未満 |
1未満 |
5以下 |
濁度(度) |
0.1未満 |
0.3 |
2以下 |
<質疑応答>
Q.いくらで設置できるか?
A.360l/hでタンク別で130万。(今は普及のため、開発費に対して安めに設定してある。)
Q.硝酸の除去は化学反応か?
A.化学反応。主に濾材によるもの。熱は加えない。
Q.洗浄液で取り除いた硝酸の排水は垂れ流しか?
A.垂れ流しだが、洗浄剤と化合させた状態なので問題無いのでは?ただし洗浄剤の量が大量なので、近くに住宅が密集している地域では問題になるかもしれない。
Q.牧草地の土壌中の硝酸体窒素を除去するというのは考えていないのか?
A.いまのところそういった実験はしていないが、確かに牧草には地下水の何十倍もの硝酸体窒素が含まれている。だからこそせめて飲み水だけは清浄なものを供給したい。都城で17ppm硝酸体窒素が検出された農家があり、そこでは原因不明の子豚の発熱、下痢、発咳、死産が続出しており、飲み水を地下水から水道水に変えたところそれらの症状がたちまち治まったというデータがある。
メカニズムとしては、土壌中では化合と分解が繰り返されて、結果として最も安定な硝酸体窒素という形をとっているわけである。よって、たとえこの除去装置で使っているような洗浄剤を土壌にまいて硝酸と化合させても、時間が経てば再び硝酸体窒素に戻るだろう。
Q.この除去装置を通した水を飲ませると、家畜の排泄物中の硝酸体窒素も減って、土壌改良になるのでは?
A.糞尿中にはどうしてもアンモニアが含まれるため、それが排泄されて、土壌中で安定な硝酸体窒素の形をとるのは避けられない。
Q.そこをなんとかしないと絶えず排泄と洗浄を繰り返すことになるのでは?
A.畑に家畜の糞尿をまく、近くにこれまでさんざん鶏糞をまいてきた茶畑がある、といった状況では、その辺りの地下水は全滅していると思っていい。特に鶴田町で聞いた話では、下が岩盤であるため、そこで硝酸体窒素が溜まって濃縮しているという深刻な現状もある。
6. 繁殖和牛の生産と管理 【君付動物病院 君付忠和】
◎田代町管内における子牛1頭当たりのせり値が高い水準にある農家の生産及び管理について
農家の形態
・ 36頭のスタンチョン飼い
・ 母牛飼養管理
⇒ 個体管理、給餌、分娩、採糞、授精
<個体管理>
スタンチョンをいち早くとりいれ、種付け、腔胎検査、給餌量の調整、添加剤の投与
<給餌>
購入飼料→乾草、にどがみ
ビタミン、ミネラルの補給→君付ミックス繁殖用を50g/day/頭給与
|
乾草 |
にどがみ |
大豆粕 |
君付ミックス |
分娩前約2ヶ月 |
3kg |
4〜5kg |
500g |
50g |
分娩後約4ヶ月 |
3〜4kg |
3kg |
- |
50g |
増し飼い
<分娩>
分娩予定日の約2週間前から分娩室に入れて個体管理
分娩後は分娩室で約2週間母子ともに飼養
その後は離乳(3〜4ヶ月)するまで子付牛舎に移動
*移動時の注意点
以前からいる母牛はスタンチョンに繋いだままの時移動
移動した母子のみ放し飼いにして慣れさせる
子牛は初めてなので子牛部屋と母牛部屋を行き来して場所を覚える
落ち着いた頃(約30分)に全頭スタンチョンから解放する
<人工授精>
種付けは分娩後30日以上経過した母牛に行う
分娩後40日以上発情を見ない牛は獣医師の診察を受ける
<パソコン管理>
繁殖状況、飼料代金、セリ価格
<採糞>
分娩室:分娩前後は毎朝1回採糞
子付牛舎と妊娠牛舎:週1回籾殻を補充していき、月に1回機械による採糞
<子牛の飼養管理>
子牛の生時体重を測定し、パソコンに記録
分娩後2週間から離乳まで親とともに子付牛舎で群飼い
寄生虫の予防・駆除は徹底
離乳後、月齢ごとに別飼い牛舎に移動し、放し飼い
出荷2ヶ月前からは繋ぎ飼いにして個体管理
給餌
|
チモシー |
マンナメイト |
ファイバー黒牛 |
君付ミックス |
3ヶ月未満 |
飽食 |
1.0kg |
0.5kg |
10g |
〜4ヶ月 |
1.5kg |
- |
1.8kg |
20g |
〜5ヶ月 |
1.5kg |
- |
3.6kg |
20g |
〜6ヶ月 |
1.5kg |
- |
5.4kg |
20g |
〜7ヶ月 |
1.5kg |
- |
6.3kg |
20g |
〜8ヶ月 |
1.5kg |
- |
7.2kg |
20g |
〜9ヶ月 |
1.5kg |
- |
8.1kg |
20g |
* マンナメイト:子牛の餌付飼料
* ファイバー黒牛:バカス入りのTME飼料
子牛部屋の採糞
授乳中の子牛は藁を切ったものを積み重ねていき、月に1回機械による採糞
採糞後は牛床を消毒して、土着菌を散布→堆肥の発酵を促進
白痢の予防に効果?
土着菌は2週間に1回は散布
別飼い牛舎と繋ぎ牛舎は毎朝採糞して籾殻を敷く
<疾病関連>
下痢の発症が少ない(年に2〜3頭)→発症しても自分で治療できる程度
繁殖障害が少ない(2年に1頭)
難産、けが、気管支炎等は僅かに発生
<その他>
雌仔牛に関しては太りすぎに注意
子牛発育調査の実施
<まとめ>
農場のデータを集め、それを分析して農場に返すことを手がけていきたい
技術指導
【NOSAI北薩 橋之口哲】
<はじめに>
大脳皮質壊死症とは、ビタミンB1欠乏による神経系疾患で、視力の喪失、平衡失調などを特徴とし、病理学的に大脳の浮腫、大脳皮質の壊死が認められる。
今回、ある肥育農場にて典型的な大脳皮質壊死症に遭遇したので報告する。
<症例>
品種:黒毛和種
性別:去勢オス
導入:平成14年2月
月齢:約10ヶ月齢(導入後2ヶ月)
体重:約300kg
<病歴>
平成14年 3月28日 水溶性下痢にて加療
3月29日 泥状便。前日同様に加療
4月1日 パドック中央にて起立不能、沈鬱。
4月2日 ビタミンB1欠乏を疑い、フルスチアミン投与。10日間加療。2,3日後には起立するも、頭部を下垂、食欲不振、視力、聴力喪失
4月14日 北薩家畜保健所に搬入
<加療中の様子>
頭を下げ、視覚、聴覚なし
柵に向かって何度も突進し、激突する→胸垂腫脹
<血液生化学所見>
TP |
7.2g/dl |
Glu |
90mg/dl |
T-Bil |
0.7mg/dl |
Alb |
3.2g/dl |
T-Cho |
110mg/dl |
GOT |
238U/L |
Ca |
7.5mg/dl |
TG |
18mg/dl |
CPK |
1675U/L |
IP |
5.8mg/dl |
BUN |
10.3mg/dl |
LDH |
3750<U/L |
Mg |
1.9mg/dl |
Cre |
1.0mg/dl |
|
|
起立不能発症のため、GOT,CPK,LDHが著増
<細菌検査>
有意菌は分離されず
<剖検所見>
腸間膜リンパ節の腫大
肺門リンパ節の腫大→割面にチーズ様の膿瘍
<病理組織所見>
髄膜及び大脳皮質の血管周囲腔における脂肪顆粒細胞の浸潤
大脳皮質中層〜深層における層状壊死および基質の海綿状変化、神経細胞の変性
血管周囲腔における脂肪顆粒細胞の浸潤 皮質中層〜深層における基質の海綿状変化、神経細胞の変性
<病理組織学的診断>
大脳皮質壊死症
<まとめ>
今回の症例は、前駆症状(水様便)を呈した教科書的症例であったが、初診時にチアミン投与は行わなかった為、著効を得られなかった。
初診時に、チアミン投与による治療的診断によって、類症鑑別を行うべきであった。
8. 万田酵素 【松窪】
万田酵素とは植物発酵食品である。飼料添加剤として畜産現場で以下のように使用することができる。
・ 免疫応答の改善による抵抗力アップ
・ 急性疾患および慢性疾患時における増体率低下の予防および回復
・ 繁殖成績の改善
・ 子牛・子豚の良好な発育
・ 食欲の亢進
・ 畜舎環境の改善および産業廃棄物の排出量軽減
・ バイオガス排出量の軽減の可能性
給与量:一頭あたり3g~100g/日
給与方法:適量を家畜に直接または飼料と混合して給与
9. 体験発表 【藏前哲郎】
◎鼻腔が3つ
10産目の子牛。正常の鼻腔の間に深さ2cmの腔があり、腔内部の皮膚を切皮し除去。腔は完全に閉鎖した。
<質疑応答>
Q:骨は正常だったか?
A:他の部分に異常はなかった。
◎壊疽性乳房炎
起立不能で診察したら乳房が1本壊疽していた。漿液性の乳汁を産出。
大量補液で支持療法を行ったが翌日死亡。
◎乳房からの異物
乳汁分泌の減少で診察。乳房を触診すると乳房の先にコリコリした異物があり、切開してこの異物を摘出した。異物は1cm×0.5cmで心臓の組織のように弾力性があった。今まで何例か診たが、この異物が何であるのか鹿児島大学で鑑定してみようと思う。
◎創傷性心嚢炎
胸垂に著しい浮腫が見られた。エコーでの確定診断は行わなかったが、右側からの心音が確認できず、心嚢液から創傷性心嚢炎と診断した。分娩一ヶ月前であったので心膜還流法で延命処置を行った。4日間心膜還流を行い、3日目に子牛を分娩したが5日目に死亡した。
・大腸菌不活化ワクチンによる乳房炎対策
分娩予定40日前と20日前に下痢予防の大腸菌不活化ワクチン(イモリコブ)を1本筋肉注射。
泌乳中の牛には3週間間隔で2回注射。6農家で400頭計画。
結果:乾乳中の注射群では乳房炎が少ない。
発症しても食欲低下、発熱、硬結・腫脹が認められない。
泌乳期の注射群では体細胞数の減少が認められた。
10 -1. ホルスタイン種三つ子に見られたフリーマーチンの1例
【鹿児島大学 浜名克巳先生】
牛の異性双胎においては雌仔牛の約90%に生殖器の先天異常が起こり不妊症となる。《フリーマーチン》
今回三つ子の異性多胎例に遭遇し、生前・病理解剖後にいくつかの検査を行った。
−経過−
母牛はホルスタイン種。2産後に卵巣萎縮のため性腺刺激ホルモンであるeCG(PMSG)投与 → 8日後の発情で受胎
分娩予定よりも20日早く3頭を2日にわたって娩出
♂:10kg、死産
♀:30kg、本症例
♀:35kg、尾位難死産
症例の雌仔牛は虚弱ながらも生存。母牛はその後体調不良、泌乳せず、分娩後11日に死亡
−症例−
雌、30kg、ホルスタイン種。体格は小さく活力に乏しい。粘血下痢便排出。外陰部の外見は異常なし。
≡生前検査≡
〇血液一般検査 → 異常なし
〇膣長測定 → 小試験管(直径1.5cm)が3.5cm挿入可能
⇒フリーマーチンの疑い強し
〇染色体検査 →培養白血球の染色体検査によりXX/XYの混在するキメラが見られた。
〇PCRによるSRY検査
→ PCR検査によりY染色体由来の雄特有のバンド(SRY、212bp)検出
⇒本症例は雄型⇒フリーマーチン確定
≡病理解剖後検査≡
〇肉眼的観察
・ 卵巣小さく左右とも退色、割面扁平、無構造
・ 外子宮口直前に肉柱様のひだがありほとんど膣腔を塞いでいる
・ 膣そのものは発達しているが膣弁部は狭い(長さ10cm×幅2.5cm)
⇒生殖器の構造異常が疑われた。
〇組織学的観察
−卵巣 ×40−
胞状卵胞・閉鎖卵胞存在し、卵巣機能には異常は見られなかった。
−子宮頚管 ×40−
病的というほどの異常は見られなかった。
−結論−
本症例は特に染色体とPCRのけ結果からフリーマーチンである。膣や頚管の子宮外口で狭窄があるので繁殖成績は保証できない。
10 -2. 2002年前期に鹿児島県内に流行したチュウザン病の解析
【鹿児島大学 浜名克巳】
2002年前期に鹿児島大学に胎子期のウイルス感染が疑われる、中枢神経の異常や関節湾曲症の子牛が搬入された。これらに各種検査を行い、疫学調査と病因の解析を実施した。
−材料−
中枢神経系の異常や関節湾曲症が見られた黒毛和種子牛44例
−方法−
・ 産地、品種、性別、出生日、日齢、体重、異常産3種混合ワクチン摂取の有無、初乳摂取の有無、の記録
・ 臨床症状の記録
・ 採血、血液検査
・ 剖検→肉眼的観察
・ 母牛と子牛の血清について異常産関係の4ウイルスの抗体測定
・
|
|
分類・性別・品種 |
|
|
|
|
関節 |
水無 |
水無+小脳 |
側拡 |
計 |
♂ |
4 |
7 |
9 |
2 |
22 |
♀ |
3 |
9 |
8 |
2 |
22 |
計 |
7 |
16 |
17 |
4 |
44 |
44例全て黒毛和種
関節:関節湾曲症 水無:水無脳症
小脳:小脳形成不全 側拡:側脳室拡張
出生地と例数
伊佐:12 曽於:14 薩摩:2 肝属:1 姶良:15
|
|
出生月の分布 |
|
|
|
|
関節 |
水無 |
水無+小脳 |
側拡 |
計 |
1月 |
2 |
1 |
0 |
0 |
3 |
2月 |
1 |
4 |
6 |
0 |
11 |
3月 |
4 |
5 |
5 |
1 |
15 |
4月 |
0 |
6 |
6 |
1 |
13 |
5月 |
0 |
0 |
0 |
2 |
2 |
6月 |
0 |
0 |
0 |
0 |
0 |
計 |
7 |
16 |
17 |
4 |
44 |
⇒2,3,4月に集中
|
|
|
|
|
産次数分布 |
|
|
|
|
|
|
|
||
産次数 |
1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
11 |
12 |
不明 |
計 |
関節 |
4 |
0 |
0 |
1 |
0 |
0 |
0 |
0 |
0 |
0 |
0 |
1 |
1 |
7 |
水無 |
7 |
0 |
1 |
2 |
0 |
0 |
2 |
1 |
0 |
1 |
0 |
2 |
0 |
16 |
水無+小脳 |
10 |
4 |
0 |
0 |
1 |
0 |
0 |
0 |
0 |
1 |
0 |
1 |
0 |
17 |
側拡 |
0 |
0 |
1 |
0 |
0 |
1 |
1 |
0 |
0 |
0 |
0 |
0 |
1 |
4 |
計 |
21 |
4 |
2 |
3 |
1 |
1 |
3 |
1 |
0 |
2 |
0 |
4 |
2 |
44 |
→初産に多いが、高産次でも出ないわけではない
分娩予定日とのずれ
日数のずれ |
関節 |
水無 |
水無+ |
側拡 |
計 |
(日) |
|
|
小脳 |
|
|
〜-11 |
1 |
1 |
1 |
2 |
5 |
‐10〜−6 |
1 |
1 |
5 |
0 |
7 |
‐5〜5 |
2 |
5 |
10 |
0 |
17 |
6〜10 |
0 |
4 |
0 |
0 |
4 |
11〜 |
1 |
2 |
1 |
0 |
4 |
不明 |
2 |
3 |
0 |
2 |
7 |
計 |
7 |
16 |
17 |
4 |
44 |
3種混合ワクチン接種状況
|
関節 |
水無 |
水無+小脳 |
側拡 |
計 |
接種 |
3 |
9 |
8 |
1 |
21 |
未接種 |
2 |
6 |
6 |
2 |
16 |
不明 |
2 |
1 |
3 |
1 |
7 |
計 |
7 |
16 |
17 |
4 |
44 |
→接種にかかわらず発生
→(異常を集めたからであってワクチンが効かないというわけではない)
⇒ワクチンのウイルスと病因のウイルスが少しずつ違っているのでは??
血清ウイルス抗体価陽性例数
|
|
関節 |
水無 |
水無+小脳 |
側拡 |
計 |
アカバネ |
母牛 |
4 |
11 |
9 |
1 |
25 |
|
子牛 |
5 |
12 |
14 |
2 |
33 |
チュウザン |
母牛 |
4 |
10 |
8 |
1 |
23 |
|
子牛 |
4 |
14 |
16 |
3 |
37 |
アイノ |
母牛 |
3 |
6 |
5 |
1 |
15 |
|
子牛 |
1 |
10 |
9 |
3 |
23 |
イバラキ |
母牛 |
4 |
6 |
4 |
0 |
12 |
|
子牛 |
2 |
3 |
10 |
3 |
18 |
例数 |
母牛 |
4 |
11 |
9 |
1 |
25 |
|
子牛 |
7 |
16 |
17 |
4 |
44 |
→チュウザンは母子共に抗体価が60以上がほとんどであった。
⇒今回の症例のほとんどがチュウザンが病因
−考察−
※ 今回の流行の主要因はチュウザン病と判定された。
・ 従来のチュウザン病は水無脳症と小脳形成不全を特徴とするが今回は水無脳症単独の例も44例中16例と多く見られた。
・ 関節湾曲症や側脳室拡張も同時期に発生した。
・ アカバネ病などの同時期発生、チュウザンウイルス株変異の可能性が疑われた。
−まとめ−
今回の流行の特徴
@ 水無脳症
A 水無脳症と小脳形成不全の併発
B 関節湾曲症、側脳室拡張も発生→普通は関節湾曲症は水無に先立って12月
くらいに発生が多い。
C 全て黒毛和種での発生
D 出生月が2〜4月に集中
E 初産牛での多発
F ワクチン接種牛にも発生
G チュウザン抗体価の強い陽性
11. 近頃 頭の痛い問題 あれこれ 【NOSAI揖宿 祝迫】
・ 肉用牛一貫農家でのサルモネラ症
黒毛和種の肥育牛がサルモネラ症で発熱、血便し死亡した。
2年前にF1を導入したのが原因と考えられる。
・ 出生子牛の熱射病
8月中旬から9月上旬にかけて生後3日以内の子牛が発熱、開口呼吸の症状を示した。哺乳は行う。送風や人口給水、補液等で2〜4日で回復した。牛舎は直射日光が当たらず、大型通風機が設置してある風通しの良い構造であった。
盆前の暑い時期を胎内で過ごしたのが原因か?
Q:子牛の多然性赤血球症ではないか。輸血を行えば2〜3日で回復した経
験があるのだが。
A:心拍も速いので輸血も考えたが、開口呼吸をしていたので熱射病と判断
し水分補給を行った。
今後、発生したら血液検査を行いたい。
・ 肥育農家での急激な呼吸困難の症状
多頭飼育農家で牛が開口呼吸、呼吸速迫、ラッセル呼吸音の症状を示した。治療するが改善せず廃用途中で死亡。
ビタミンA欠乏症が原因か?
直下型扇風機による乾燥が原因か?
・ 肥育農家での増体減(採食量減)
飼料中ビタミンAが800IU/kg配合されていたものを600IU/kgまで抑えたところ、採食量が減少し出荷体重も減少した。導入時のビタミン量は80〜100、肥育中期で60±30、17ヵ月で40±10、出荷直前で38±5であった。
Q:ビタミンAを下げれば等級が上がるということに根拠はあるのか?ある時期にビタミンAを下げれば効果があるという報告はあるが。
A:飼料会社が売り上げをのばすため、含有ビタミン量の低い飼料をベースに使い、ビタミン量を維持するために飼料添加剤やヘイキューブを用いるよう指導しているという背景がある。100頭クラスの農家ならこのようなビタミンの管理が可能だが、4千頭クラスの農家で肥育ステージごとの管理ができていない農家では対応できない。
・ 肥育牛の慢性肺炎対策
牛舎を24頭/スパンから4〜8頭/スパンに改造したところ重症の肺炎が著しく減少した。 餌を食べられない牛が減ったからだと考えられる。
また、市場に出る前の3種混合ワクチンが5種混合ワクチンに変わりワクチン買わない分CTCの添加ができるようになったことも一因である。
【デンカ製薬株式会社 川口擁】
◎Ovsynch法
Ovsynch法とは乳牛の経産牛の排卵の同期化を行う方法であり、受胎率は50%である。現在では乳牛の未経産牛や肉用牛に応用されている。
GnRH
PGF2? GnRH 定時授精
7日 48h 24h
▲ ● ▲ ○
(30-36h) (16-20h)
◎乳牛におけるOvsynch処置の成績
・根室共済における成績(1996〜2001の集計) 山田恭嗣による
実施頭数 |
授精頭数 |
受胎頭数 |
受胎率 |
中止 |
|
|
|
|
|
|
途中発情 |
他疾病・転売 |
計 |
1538 |
1438 |
736 |
51.4% |
64(4.2%) |
43(2.8%) |
107(7.0%) |
・Ovsynch反復処置における受胎成績 山田恭嗣による
Ovsynch/定時授精後不受胎であった乳牛40頭に対して、再度Ovsynch/定時授精を行い、その処置で不受胎であったものに更に反復処置を行った。2回目の処置で40頭中19頭(47.5%)、3回目の処置を行った9頭中8頭(88.9%)、4回目の処置を行った1頭中1頭ののべ50頭中28頭(56.0%)が受胎した。
供試牛群40頭における累積受胎率は、2回目の処置で47.5%(19/40頭)、3回目までの処置で67.5%(27/40頭)、4回目までの処置で70.0%(28/40頭)であった。
Ovsynch/定時授精 |
|
2回目 |
3回目 |
4回目 |
計 |
|
処置頭数 |
40* |
9 |
1 |
のべ50 |
|
妊娠頭数(%) |
19(47.5) |
8(88.9) |
1(100) |
28(56.0) |
累積受胎率 |
|
19(47.5) |
27(67.5) |
28(70.0) |
|
自然発情時のAI |
妊娠頭数 |
− |
3 |
− |
3 |
その他 |
淘汰 |
|
8 |
|
8 |
|
不明 |
|
1 |
|
1 |
*:1回目の処置で不受胎の牛
・Ovsynch反復処置開始時における卵巣所見別の受胎成績
供試牛には卵巣疾患牛が含まれていたが、卵巣停止例で57.9%(11/19頭)、卵巣嚢腫例で100%(5/5頭)が受胎した。卵巣停止、卵巣嚢腫でもある程度の受胎率があるとわかる。一方、Ovsynch反復処置により、供試牛の繁殖性が低下する所見は見られなかった。
試験開始時の卵巣所見 |
試験頭数 |
妊娠頭数(%) |
淘汰 |
不明 |
|||||
Ovsynch/定時授精 |
自然発情時のAI |
計 |
|||||||
2回目 |
3回目 |
4回目 |
小計 |
||||||
卵巣停止 |
19 |
8 |
2 |
1 |
11(57.9) |
3 |
14(73.7) |
4 |
1 |
卵巣嚢腫 |
5 |
4 |
1 |
|
5(100) |
|
5 |
|
|
黄体期 |
13 |
5 |
4 |
|
9(69.2) |
|
9 |
4 |
|
卵胞期 |
3 |
2 |
1 |
|
3(100) |
|
3 |
|
|
◎和牛におけるOvsynch処置の成績
・プログラムA
和牛におけるOvsynch処置を以下にプログラムAとして示した。第一回目のGnRH処置は主席卵胞の排卵と新卵胞波の誘起が必ず起こるよう100?g投与する。第二回目のGnRH処置は、ある程度形成された卵胞を排卵させるため50?gでも可能と考え50?gまたは100?g投与した。
7日 48h 16-24h
▲ ● ▲ ○
GnRH-A
PG
GnRH-A 定時授精
スポルネン
クロプロステノール スポルネン
100?g
500?g 50又は100?g
黒毛和種牛におけるOvsynch処置の受胎成績
区 |
GnRH投与量(?g) |
年齢(歳) |
産次 (産) |
分娩後日数 |
試験頭数 |
中止頭数* |
AI実施頭数 |
受胎率(%) |
||
経産 |
未経産 |
計 |
||||||||
T |
100−100 |
3.4(1〜7) |
2.4 |
111.4 |
19 |
5 |
24 |
3 |
21 |
12(57.1) |
U |
100−50 |
4.0(2〜5) |
2.4 |
118.0 |
7 |
0 |
7 |
0 |
7 |
3(42.9) |
*:定時授精時には排卵済で授精を中止したもの
・プログラムB
Ovsynch法では50%の受胎率があるが、処置を発情周期の1~4日で行うと20%、13~17日に行うと50%未満の受胎率であった。この理由として、主席卵胞が発育段階であったなど主席卵胞の状況が関係すると考えられる。このことから、プレシンクロナイゼーションが良いということで前処置の際PG、GnRHの投与量の増加やCIDERとの併用が行われている。
和牛におけるOvsynch変法処置を以下の図にプログラムBとして示した。
定時授精時に排卵済みであることを防ぐため、和牛(肉用牛)で2回目のGnRH処置を早めたほうが良いという説がある。プログラムBでは48時間で行っていた2回目のGnRH処置を32時間後に行う。
d0 d7
d8 d9
9.00
17.00 9.00-11.00
7日 32h
16-18h
▲ ● ▲ ○
GnRH-A
PG
GnRH-A 定時授精
スポルネン
スポルネン100μg
100μg
又はhCG
ゲストロン3000IU
下の表はプログラムBの結果である。2回目のGnRH処置をhCGに変えて比較した。GnRH区でもhCG区でも50%の受胎率が確保できたことがわかる。発情徴候はほとんど発情しないか微弱であった。
黒毛和種牛におけるOvsynch変法処置の受胎成績 安部茂樹ら(島根県立畜試)
区 |
OvsynchプログラムB |
黒毛和種 |
定時授精後の発情徴候 |
受胎 |
|||
年齢(歳) |
分娩後日数 |
頭数 |
−〜± |
+ |
|||
GnRH区 |
GnRH-PG-GnRH |
8.4(2〜14) |
226.6±150.9 |
10*1 |
10 |
0 |
5/10(50.0%) |
hCG区 |
GnRH-PG-hCG |
9.1(5〜15) |
127.6±69.7 |
9*2 |
8 |
1 |
5/9(55.6%) |
*1:発情不明牛8頭、受精後不受胎2頭
*2:発情不明牛7頭、卵胞嚢腫2頭
今後例数を増やしていく。
【宮崎大学家畜内科学講座 堀井洋一郎】
子牛の腸炎は和牛繁殖農家において経済的な損失が非常に大きく、その中でもコクシジウム症の占める割合は大きい。オーシストの清浄化は非常に困難で、発症や重症度には個体差が見られ、農家の間でも発症の頻度はばらばらである。また重症化のメカニズムもほとんどわかっていない。
下痢の原因としてのコクシジウム症の占める割合は大きいが、その実態はよくわかっておらず、経験的に診断が下されている。典型的な血便が認められ、検便によりオーシストが見つかったときに、年齢、生後の日齢により判断し治療をおこなっている。実際、コクシジウム症の症状は複雑で、フィールドでは教科書どおりの典型的な下痢症がでるものの、健康な子牛にボビス、ツルニーなどを実験感染させても、オーシストは多量にでるが、激しい下痢や血便は必ずしも伴わないこともある。
コクシジウムと下痢の関係はわかりにくいので、今回のコクシジウム感染症とは、いわゆる臨床的にコクシジウム症と思われる下痢が生じている個体を対象にしたもので、そのような個体がなぜ発症するのかを検討した。例えば、下痢の有無に係わらず糞便検査をすると、オーシストが便1グラム当たりに何万も出ているが下痢をしていないケースを見かける。反対に非常にひどい下痢をしているがオーシストの数はそれほどでもないケースもある。どのようなものが発症するのかということで、背景に免疫の異常などがあるのでは?という事を考えて研究を進めている。
西諸共済での過去四年間の細菌性腸炎やコクシジウム症発生の割合をみていると、細菌性腸炎と診断されるものが多いが、コクシジウム症と診断されるものは確実に増えており、腸炎全体に占める割合も増加していることがわかる。
小林市内においてコクシジウム症と診断された23〜77日齢くらいの子牛45頭を、「コクシジウム症と初めて診断されたもの」を初発群、「治療して一旦は治癒するが再発するもの、何回も治療を要するもの」を再発群、「発症の無いもの」を対照群として、10ccほど採血した。
まず免疫の基礎であるヘルパー細胞と呼ばれるCD4陽性細胞と、サプレッサー細胞、サイトトキシック細胞と呼ばれるCD8陽性細胞の比率と数を調べた。
→CD4とCD8の比は1.5くらいが平均で、初発群、再発群、対照群でほとんど差が認められない。よって、リンパ球のグループには大差が無く、免疫異常ではないということがわかる。
次に、リンパ球の数は十分あるとして、その反応性、つまりいろいろな抗原が外から入ってきたときにそれに対してリンパ球がどのように反応するかということを見る必要がある。この試験は、採材時期が1年ずれており、今回は再発群がとれなかった(この地区の1年間の意識変化によって、再発をみるようなひどい症状は出なくなった)。
発症群と対照群の2群において、リンパ球の幼弱化反応試験を行った(@)。また肥育牛のようにビタミンAを意識的に欠乏させることはない繁殖牛では、本来ビタミンAの欠乏はないはずであるが、実際は血中濃度にばらつきがある。特に多頭化をおこない、良質の粗試料を十分に与えられていない農家では、親牛でビタミンAの低下がみられるので、子牛の血中ビタミンA、ビタミンE濃度を測定した(A)。さらにリンパ球の幼弱化反応が抑制されるときには、何らかのストレス要因によってコルチゾルなどが増えて、免疫を抑制する可能性があるのでこれも調べた(B)。
→@ConAというマイトジェンを使って、リンパ球(主にTCellの)の幼若化反応を見た結果、発症群の中には低い反応性を示すものが出ている。このような個体はリンパ球の反応が弱く、こういった個体は、今回は初発群でも、後に再発群になる可能性が高いと考えられる。しかし、全体としては、発症群においでも非常に反応性のよいものが多く、発症群と未発症群で比較してみても大きな差は見られない。
→AビタミンAとビタミンEの値でも、コクシジウム症の発症群と未発症群の間に有意差は無い。ビタミンAの値が生後1〜2ヶ月で40〜60IU/dlというのがどうなのかは難しいが、親は平均60〜80 IU/dlで、100 IU/dlを超えるような個体は少ない。これからすると、まだこの時期は親由来のビタミンの要素が多く、今後取り込んでいくので特に過不足はないと思われる。ビタミンEも同様である。
→Bコルチゾルの濃度も異常を示すようなものは認めなかった。
<考察>
Tリンパ球の数の変化も再発にほとんど関係無い。つまり、発症のメカニズムというのは宿主の免疫能以外の因子が関与しているのではないかと考えられ、また、コルチゾルの測定結果から、飼育条件の差異も有意な発症要因とはならず、特定の農家が特にストレスのかかるような飼いかたをしていて発症するわけではないということが言えそうである。
結局、発症するのかしないのかというのは、コクシジウムがいるかいないかという単純なことではもちろんなく、牛の資質の問題でもない。
農家によって発症の頻度が異なるため、子牛の下痢のコントロールがうまくいっている農家を含めた調査する必要がある(例えば、生菌製剤を使って腸内の菌叢を一定に保つことによって、コクシジウムの感染はあってもなかなか下痢にならないような状態を作っている可能性)。コクシジウムによる下痢はないと言っている農家でも、コクシジウム自体の有無はわからない。今後そういう疫学調査を進めていく必要がある。
また、コクシジウムがいるということと下痢の発症とは直接関係がなく、他の要因が下痢の引き金になっているということも考えられる。北海道のコクシジウムと思われる下痢のひどい農家で、生後10日くらいでサルファ剤を使用すると、ひどい症状がなくなったという例がある。このような予防策を講じた農家で発症(特に偽膜性の腸炎のようなひどい状態)が減るということは、下痢にコクシジウムが影響しているのはまちがいない。ただし、下痢の発症の引き金はコクシジウムだけかということを今後調べる必要がある。疫学的調査によりもう少しはっきりしたことがわかるのではないかと考えられる。
13 -2. スナネズミに麻痺性イレウスを引き起こす乳頭糞腺虫由来物質の検討
【宮崎大学 堀井洋一郎】
乳頭糞線虫によるいわゆるポックリ病は、臨床的にはだいたい解決されており、糞線虫の濃厚感染に対して、駆虫することによってポックリ病を予防することができることは機知のこととなっている。しかし、ポックリ病の原因及びメカニズムは解明されていない。
実際に牛で研究することは難しいため、他のモデル動物としてスナネズミに糞線虫の親虫を外科的に移入すると、腸管に寄生できるということがわかった。このスナネズミをモデル動物にするよう検討していたら、心臓突然死ではないが腸管に麻痺性のイレウスを引き起こしていることがわかった。心筋と腸管の平滑筋という違いはあるが、筋肉を麻痺させるという点で、疾患モデルになる可能性を秘めているのでは?と考えられた。
乳頭糞線虫の成虫をスナネズミに外科的に移入すると、親虫が一旦腸管に定着し、しばらくすると排便が抑制されることがわかった。手術自体はうまくいくがスナネズミが死ぬので、寄生している虫体による機械的な障害と考え、同様に他の種類の糞線虫を多量に移入したが、イレウスは生じなかった。このことより、単なる機械的な原因ではなく、イレウスを起こす物質が乳頭糞線虫に存在するのではと考えた。
そこで虫を磨り潰して抗原液を作成し、虫の数に対応するように濃度を決めて、500匹、1000匹、2000匹分に相当する虫体抽出液をそれぞれPBSに溶解し、親虫をスナネズミの腸管に入れる代りに、虫体抽出液を直接スナネズミの腹腔に入れ、バリウムを飲ませて胃の通過時間を見ることで消化管のイレウスを観察した。
→コントロールでは、15分でバリウムが胃から出て小腸に展開し、6時間で大腸、直腸までながれている。
→1000匹分の虫体抽出液を入れたスナネズミでは、6時間経過してもバリウムは胃の中に留まっており、全く腸に展開していない。8時間で胃を通過し始め、24時間で完全に胃から出て排泄された。
◎抽出液に含まれる虫の数に依存して通過時間の延長が認められ、胃内に貯留する時間が長くなる。すなわち、虫体成分が麻痺性イレウスによる通過障害を引き起こし、投与量依存性に麻痺性イレウスが再現されたということである。これは乳頭糞腺虫による突然死に非常によく似ている。
このイレウスを生じさせる物質の特定するため、マグヌス法を用いて腸管の筋肉のテンションを直接測定した。筋の収縮薬としてアセチルコリンとテトラエチルアンモニウム(TEA)を用い、それで収縮した状態の筋肉が、虫の抽出液を作用させることで弛緩するかどうかを見た。
→コントロールとして、筋肉にPBSを作用させたときに比べて、アセチルコリンとTEAは非常に強い収縮を起こし、その収縮は一定の時間継続される。これを洗浄すると元の弛緩状態に戻る。
→アセチルコリンで一定の収縮状態を得たあと洗浄し、もう一度収縮させた状態で虫体抽出液を作用させると、収縮していた腸管が弛緩した。そのあと洗浄してからアセチルコリンを作用させても、抽出液の影響残っていた。TEAによる収縮も同様に阻害された。
◎虫体抽出液の筋肉に対する弛緩作用は、収縮薬による収縮を抑えるほど強いことがわかった。
次に、このイレウスを起こすと思われる虫体成分の分子量を、虫体成分のタンパク分画によって調べた。
→分子量10万で分画すると、10万以下では弛緩が起きない。
→10万以上で弛緩が起きた。
→30万で分画すると、30万以下でははっきりした弛緩が認められない。→30万以上では少し弛緩した。
◎イレウスを起こすと思われる虫体成分が、30万での分画によって上下に分散されたために明らかなイレウス反応が認められなかったと考えられた。このことから筋肉の弛緩に関与する物質は分子量30万前後ではないかということが推測される。この次の段階として、この物質が心筋にどのように作用するのか、動物種(すなわちスナネズミと牛)における違い、つまり牛の腸管の筋肉とスナネズミの腸管の筋肉ではどのように違うのかということを検討する必要がある。乳頭糞線虫のもつ成分に対して、げっ歯類では腸管の平滑筋に感受性があるが、反芻動物では心筋に感受性があるということになると、乳頭糞線虫による心臓突然死のメカニズムが解明できるであろう。
14 -1繁殖障害の実態と問題点 【鹿児島大学 上村俊一】
〜小野斉(ジェネティクス北海道)〜
↑初回授精受胎率は年々下がって来ているが特に乳牛の受胎率が低くなっている。種付け回数は1回で受胎するのは全体の50%、2回では25%、3回では13%であり、全体の88%が3回で受胎する結果となった。
↑全国的に分娩間隔は長くなってきているが北海道に比べ特に都府県の方が長くなっている。
最近発情が見えない牛が増えているため受胎率は変わらないが発情を示す牛が少ないので妊娠率が低下してしまうONO症候群(Oestrus not observe syndrome)が増えている。
視覚による発情発見は、@最低20分は観察A1日最低3回は観察、と言われているが、実際は、@10分以内A一日2回が殆どである。
↑発情の見逃しを減らすために発情発見補助用具として、テールペイント法(クレヨン法)、ヒートマウントデッテックター、チンボール、自動歩数記録計、高周波利用法などの利用がある。
↑受胎に対するリスクファクターとして、胎盤停滞、子宮内膜炎、卵巣嚢腫がある。
↑受胎低下の要因には人の要因、牛の要因、牛群の要因があり人の要因は努力しだいで一番制御できるのでこれを減らすようにしなければならない。
14-2 異なる発情周期におけるウシ黄体の組織-内分泌学的検討
【鹿児島大学 上村俊一】